見慣れた風景は分解され、
万華鏡のごとく再構築される。
メルカトル・パノラマ
デジタルフォトによる
コラージュアートの不可思議な世界
本書は、デジタルフォトによるコラージュアートの写真集だ。
著者は、世界を旅して、さまざまな街角や風景をパノラマ(分割)写真に収め、それをメルカトル図法のように展開・再構築して、万華鏡のようなアート作品を創りあげた。
着手してから25年におよぶ著者の集大成でもある。
目の前の風景が無数に分割され、再構築された世界は、不可思議で美しく、驚きと刺激に満ちており、読者を創造の世界へと連れて行ってくれるだろう。
あとがきより
私が初めてパノラマを制作したのは、1986年、シカゴでのことである。当時はアメリカやヨーロッパで新しい写真の動きがあり、時代は撮る写真から創る写真へと、その主流が移りつつあった。そんな流れのなかで、このパノラマは生まれるべくして生まれたといえるかもしれない。私は写真の芸術的側面よりも先に、機能的な興味から、さまざまな組み合わせを思考していたのである。メルカトルは16世紀ネーデルラントの地理学者で、地図の投影法であるメルカトル図法を生み出したことで広く知られている。彼は、地球儀を展開して、平面の世界地図を完成させた。私はこの手法に触発され、写真で構成してみようと思い至った。そんな経験もあって、パノラマ作品で構成された本書のタイトルを『メルカトル・パノラマ』と命名したのである。
この本に収録した作品を端的にいうなら、文字どおり「展開図」である。その単なる展開図を、26年もの長きにわたって、つくりつづけてきた。どういうわけか、私は旅に出ると、自分がそこにいた証明として、できるかぎりパノラマ写真を撮るようにしている。だから、この作品集を別の言い方で呼ぶなら「旅行写真」となる。
長年、制作していると、かなり効率的な撮影ができるようになる。はじめは数十分かかっていた撮影も、今では数分でこなせるようになった。しかしそれでも私の頭脳には限界があるようで、撮影しているときに最終的な展開図が予測できないこともある。だから完成図を見てみたいという誘惑に駆られる。その魅力に取り憑かれて、今日までやめられなかったのかもしれない。〈つづく……〉