沖縄に暮らす放浪の画家が水彩鉛筆で描く
光とファンタジーの世界
おかえり
天音画集
南国の鮮やかな色彩、モノトーンの幻想的な風景、禅を題材にした悟りの境地など、おだやかな、ふんわりした暖かさに心が癒される画集。
シュリンク包装されているので、誕生日プレゼントや贈り物にもオススメの1冊です。
まえがき〜Quiet lightより
遡れば、少年の…… 私は家の裏手にある赤土の山に毎日旅に出た。あるとき誰かに赤土の山を掘ると水晶が出ると聞いたからだ。薄暗い森の茂みに入り、時を忘れてしゃがみこみ、手元の影が森の闇に染まるまで黙々と掘りつづけた。 鉛筆ほどの水晶を見つけ、土を落として太陽に透かしてみた水晶の美しさは、今も忘れられない。アメンボの足跡のごとく、静佳に現れ消えるような記憶だが、赤土の香気や草の波、風にざわめく樹々のシルエット、ときおり響きわたる野鳥の鳴き声に、自分の体が消えてゆくような静寂を感じた。自分の体といえば、こんなこともあった。ある夏の夕暮れ、昼の光と夜の闇が溶けあう青い暮色のなかに入りたくて、パンツ一枚で庭に飛びだした。なにげなく、ふと自分の体を見ると、腕や手のひらがボウッと微細な光を放っていて、「電気人間だ……」と心のなかで呟いた。 やがて大人になって、植物の写真を数多く撮っている時期、花や茎、葉から、同じように放つ光を見た。物理学的には生き物も電気現象だというが、なんて不思議なんだろう、なんて美しいのだろうと……。
思えば子どもの頃から光りを求めて長い旅に出ていたのかもしれない。海に浮かぶ島々の上空を飛ぶような爽快感が好きで、数時間かけて山の峰を登りきり、息を切らしながら頂上から眺めた玄界灘。青くまぶしい海の輝きは、私をさらに遠くへ運んだ……。 毎日旅をし、毎日帰郷する。 世界のどこを旅しても、雲を見ても、海のなかの生き物を見ても、そして子供たちを見ても、神々しく光るその頃の微かな光の感覚は今もつづいている。
天音