沖縄の路地にひっそりとたたずむ77枚の壁
那覇に移り住んだスイス人が切り取った
異色の写真集
沖縄正面
七十七壁と一つの手押し車
著者のダニエル・ロペスさんは、スペイン人の両親をもつスイス人。世界を放浪しながら写真をとりつづけ、沖縄の魅力にとりつかれ、首里に移り住み、沖縄県立芸術大学大学院で学ぶ。
あるとき彼は、最高の芸術作品が、自分のすぐそばにあることに気づく。
長い時の流れと強烈な太陽、風や雨などによって、自然に完成した芸術作品である「壁」を発見したのだ。
目の眩むような色彩の饗宴、侘び寂び、朽ちていく美……
ページをめくれば、心がときめき、解放されていくのがわかるだろう。
まえがき〜宮本亜門(Amon Miyamoto)
毎日、陽は昇り、沈む。空に浮かぶ雲は形を変え、行き交う風邪は奔放に流れる。この瞬間も体内のある細胞は誕生し、死を迎える。そして今、目の前にあるモノは常に変化し続け、いつ朽ちるかしれない運命を孕んでいる。同じように感じる景色も、それに自分自身も、決して同じ継続ではなく、全てが大きなうねりの中、静寂の装いと共に変化し続けているのだ。だから人は、今この瞬間に、目の前に現れた美を珠玉と感じる。ダニエル・ロペスの作品を観ているとそんな想いが募ってくる。彼の撮った被写体が、他者にとって取るに足らないモノであっても、彼はためらいもなくカメラに収める。何故ならそこに、世界を放浪したロペスにしか見いだせない美の瞬間が存在するからだ。そこには日本人が愛する詫び寂びの世界にも通じる朽ちていく美しさや死が存在するから生を確認できる、生命賛歌にも通じる喜びがある。
ダニエル・ロペスは、その瞬間を味わうために生まれてきたのだろう。そして彼の純真無垢なアンテナが、社会通念で感性を曇らせてしまったその土地の人々に独特の懐かしさや、気づきを与える。私もその洗礼を受けた一人だ。
こんなところに、こんな美があったとは……。(つづく)