Vol.2 会議初日終了。光とともに、休息をとる。

 
 2013年8月1日  Posted by

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2013年6月15日(土)
朝、目を冷ますと、光がまぶしい。
眠るまえ、部屋のカーテンは開けたままにしておいた。
ベッドからテラスへ出て、朝一番の空と海を眺める。
すべてが、夏の光で輝いていた。
残波灯台も元気そうだ。
そこには、かげりも、躊躇も、懸念も、なにひとつない。
「屈託のない」という言い方は、まさにこういうことを言うのだろう。

英ちゃんとふたりで朝食をとりにゆくが、さすがに前夜の二日酔いで箸がすすまない。英ちゃんは、もりもり食べていて、ぼくがうらやましそうに「元気だなあ」と力なく笑うと、「二日酔いでしょ」と言って、喜んでいる。ここにいると、二日酔いですら心地よく感じる。

気合いを入れなおして、会議にのぞむ。夕方、それなりの充実感と、ふだんの100倍くらい使った脳の疲れがしみ出てくる。部屋で一息ついてから、浜辺におりて写真を撮る。

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ホテル前のプライベートビーチ脇にある巨岩のトンネルをぬける。大潮の干潮だろうか、潮がひいて、岩にびっしりと張りついたアーサ(ヒトエグサ)が生き物みたいに見える。白味噌じたてのアーサ汁を思い浮かべて、つばを飲む。

岩場をあるいてゆくと、首輪をつけた犬が、行儀よくすわって静かに海を眺めている。その横にある岩の上に女の子がすわって本を読んでいる。ときどき、水平線に目をやる。
地元にくらす女性なのだろう。テレビドラマに出てくるようなシーンで、現実の世界にいるような気がしなくなってきた。もちろん、ぼくは傍観者で、王子様ではない。

犬に微笑んでから先へすすむと、クリスティア教会の裏手の浜へ出る。天を突き刺すようなゴチック風の尖塔をもった白亜の壁の教会と、胴付長靴を着て、腹まで海につかっている釣り人を、かわるがわる眺める。どちらも、充分にストイックで、宗教的だ。

釣り人は、魚を釣ることが目的ではない。息をひそめ、竿の先、糸の張り、糸が水面と接する一点、潮のながれ、風の匂い、光の気配、つまり、自分以外のあらゆるものに意識を溶けこませている。自分の外にでているのだ。

神に祈るのも、似たようなものかもしれない。自分を、自分のそとにあるものと合体しようとしているのだ。

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西日がきついなあと思いつつ見渡すと、幻日がでている。
太陽の両脇に、幻の太陽がみえる光学現象で、雲が氷点下で結晶となり、そこに太陽の光が屈折反射しておこる現象だ。せっかく読谷まできて写真を撮っているなら、少しサービスしてやろうじゃないかと、空や雲が、おもてなしをしてくれているように思えた。

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歓声があがる。
振り返ると、クリスティア教会で結婚式がひらかれていた。
きれいに着飾った若い女性が四人、浜へ降りてきて、沈みゆく夕陽を眺めたり、写真を撮ったりしている。

最高の思い出として記憶に刻まれるにちがいない。せめて、結婚式の日くらいは、永遠の愛を信じてもいいだろう。できれば、水平線の上にたなびく夕陽や雲も、それにおとらず、永遠の美を放っていることも記憶しておいてほしい。
大きなお世話か。

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日が沈み、青一色の、モノトーンの世界がひろがる。闇が降りるまえの、光のささやかな休息。だが、それで終わりとはならない。しばらくすると、雲のへりがうっすらと桃色に染まり、やがて熾火のように、橙色の帯があらわれる。
美しすぎて、目眩がしてきた。       (つづく)


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和田 文夫
1954年生まれ。1977年、ドイツ語専門出版の三修社に入社。83年に退社し、フリーの編集者に。月刊アスキー、翻訳の世界、の校正・編集などに協力、1997年より現アマナのimagazineの編集長、1998年より、英治出版入社。2003年、ガイア・オペレーションズを設立。著者に、『キリエの誕生』『孤島の発見』(写真集)など。
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