Vol.5 喜名を歩く

 
 2013年8月19日  Posted by

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2013年6月17日(月)

琉球庵を出て、とりあえず、喜名の番所へ向かう。

58号線に出る前に左折して、車を停める。
沖縄に来て、いつも嬉しくなるのは、かんたんに車を停められることだ。もちろん、内地でも、郊外へゆけば、比較的どこでも停められるだろう。でも、何かがちがう気がする。指定された場所にしか車を停められない町は、悲しい。

もちろん、沖縄だって、法律的には駐車禁止なのであるが、喜名小学校の正門わきに立っている木があまりに立派なので、ちかくに車を停めて、写真を撮る。あとで気づくと、番所の近くに立派な駐車場があったので、そこへ移動して駐車した。車を降りて歩きはじめる。

門柱に大きなシーサーが乗った昔ながらの瓦屋根の家。一度はこんな家に住んでみたいとかねがね思っている、ぼくにとっては理想の家に近い。人の身の丈にあった小さな家。いいなあ。

さらに歩いてゆくと、食堂や商店がいくつか並んでいる。喜名にあるのに、なぜ、シンガポール? と微笑みを誘う食堂。おまけに、ギョーザとくれば、ぜひ入ってみたいところだが、営業していないようだった。次の機会に、ぜひ寄ってみたい。

喜名番所は、道の駅だが、唯一、モノを販売していない道の駅だ。感動した。地域活性化とやらで、日本全国の道の駅で、さまざまなご当地物産が販売されている。だが、喜名の番所は、清楚で、室内はひんやりと静かな雰囲気のある空間だった。
地元の人たちの寄り合いや、修学旅行生などのイベントに使用されているという。この、なにもない空間の意味を感じることができなければ、ぼくらもおしまいだ。

喜名の番所は、かつての関所でもあり、また、恩納村やヤンバルから那覇へ農産物を運搬するときの休憩場所にもなっていたという。

ちょうど、読谷村に来たときに沖縄地方の梅雨明けが宣言された。
陽射しは強烈で、一時間ほど散策していたら、うなじがひりひりして、頭がゆらめいてきた。番所のはすむかいにある番所亭で、おそい昼食をとる。冷たいものを食べたいと思い、メニューを調べていたら、紅ざる、という一品があった。

ざるそばなのだが、読谷の特産物である紅芋を練り込んだ麺である。濃いマゼンタ色のおどろおどろしい姿だが、恐いモノ見たさで注文した。絶品だった。紅芋の甘みと、コシのある歯ごたえ、すっきりした出汁、面白かったのは、薬味だ。細ネギと、糸のように細く切ったショウガが添えてあり、それがまた、さっぱりとして、滋味深い味だった。

(つづく)


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和田 文夫
1954年生まれ。1977年、ドイツ語専門出版の三修社に入社。83年に退社し、フリーの編集者に。月刊アスキー、翻訳の世界、の校正・編集などに協力、1997年より現アマナのimagazineの編集長、1998年より、英治出版入社。2003年、ガイア・オペレーションズを設立。著者に、『キリエの誕生』『孤島の発見』(写真集)など。
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