すっかり寒くなってきました。日本酒と貝類のおいしい季節ということで、新宿の隠れた名店、寿司の阿津満にいってきましたよ。
今回のゲストは大日本印刷の尼ヶ崎さん。『フェアアイル・ニッティング』や『メルカトル・パノラマ』のプリンティング・コーディネーターをしていただいています。両書籍とも、社内で噂になるほどの出来映えだったようで、なんだかありがたいことです。一緒に本がつくれてよかったなぁ、とつくづく思うのです。色物をやるときはまず尼ヶ崎さんに相談せよと、全幅の信頼を寄せている敏腕営業マンです。それにしても、いつもいい笑顔♪
印刷所に入稿するときは、必ずといっていいほど、目の前の作業に忙殺されています。トラブルなんか日常茶飯事。でも店頭に本が並ぶ日はもう決まっているので、慌ててトラブルを収束するためにしゃかりきになり、ふと気づいたら製本されて店頭に並んでいる……そして、また同じような問題にぶち当たって悩まされるというサイクルに陥りがち。いや、毎回学んでいる人は違うんでしょうけど。でもね、たいてい前と同じようにいかないのが、この世界の仕事なんです。なんせ、点数は多いですが、一冊一冊の本はまったく別の商品なんですから、それぞれに合わせたつくりをしなくちゃいけない。誰かがマニュアルにでもしてくれたらいいんですけど。とっても非効率な産業としか言いようがない。
偶然別のお仕事で、暗黙知と形式知の話を聞く機会があったんですけど、この業界はまさに暗黙知の塊のような産業だなぁと。たぶん、ビジネス・メソッドなんかを研究しているような偉い学者さんからすれば、「衰退する産業」という烙印を押されても仕方がないに違いない。とまぁそんな悲観的な愚痴をいいながらも結局は本をつくっているわけで、そうなるとトラブルやミスを防ぐための最低限の知識はためておくべきで、こうやってじっくり印刷所会社の方と話すことは私たちにとってはとっても勉強になります。
「あのとき、なぜトラブルになったんだろう」
「そもそもどうやっていれば、スムーズに事が進んだんだろう」
気にはなっていたけど、なかなか聞く機会も時間もなかった、編集×印刷のよもやま話が酒の肴です。
今回もありましたよ。
「えっ、あれって本当はこうだったの!?」的な話。
知っているようで、知らなかったこと、知っていたつもりになっていたことのオンパレード。
「千と千尋の神隠し」で出てくる、釜爺がいましたよね。蜘蛛みたいな足がにょきっと薬箱に伸びていろんな湯の薬を調合してるんですが、尼ヶ崎さんはまさにあんな感じ。決して禿げているわけではありません。
「ブラックに深みをもたせるために、以前はこういう処理をしていたけど、今回、なぜそれが出来なかったんですか!?」
なんて質問を投げかけてみると、足がにゅーんって伸びて、引きだし開けて、
「あれは、両面ブラックを基調とした写真集だったので、ここまでインクをもると、紙の乾きが悪くなるんです。紙は生き物なんで、極端に言うと、季節なんかにも関わってくる話なんです。だからどういう写真を使うのか、事前に見せていただければわかりますよ」
などなど。言葉にしてしまうと数行で終わってしまうことなんですけど、実際はこれが原因で作業が数日中断してしまうこともあったりなかったり。
呑むわ食うわしゃべるわの5時間はあっというまに過ぎていきました。
釣りと日本酒に目がない尼ヶ崎さん。次回は尼ヶ崎さんの釣った魚で一献もうけたいものです。
zafiro
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